「患者様」 か 「患者さん」 か2009/09/01 09:47

私が鍼灸師になるために学んだ専門学校では, 「患者さん」 を 「患者様」 と呼ぶように, と教育を受けた. 頭の良い厚生労働省のお役人の発想から出ているらしいが, 私は 「患者様」 と呼ぶ事に, これまでずっと違和感を抱いて来た.

何故なら, 「精神分裂病」 を 「統合失調症」, 「痴呆症」 を 「認知症」 と言い換えるのは, 所謂 「差別用語」 をなくそうとの考えの一環で, それはそれで理解の範囲内としても, 太平洋戦争に敗れた事を 「敗戦」 ではなく, 「終戦」 と呼ぶように, 言葉で糊塗して, 事実を直視しようとしていない態度と相通ずるものがある様に感じていたからである.

処が, 最近, 偶々, 三井記念病院の高本真一院長が 「医師や看護師と共に生きようとしている患者に “様” を付けると “お客様” になってしまい, 決していい “医療チームワーク” を生み出すことは出来ない」 と言った趣旨の考えをお持ちであることを知って, 得心が行った.

患者と医師 (鍼灸師も含めて) とは “同列” でなければならない. まして, 東洋医学の考えからは, 病気が治るのは, 患者本人の “生命力 (免疫力)” そのものの力であり, 鍼や灸は, その免疫力を高める手助けをする, と言う事であり, 鍼灸師 (医師) は, 患者よりも一段高い位置にも低い位置にもいる訳では決してない.

極論すれば, お互いが相手を人間として認め合い, 相互の信頼関係 (ラポート) が成り立ってこそ, 癒し効果も高まり, 初めて治療 (施術) は功を奏するのである. (因みに, もともと “ラポート” とはフランス語なので, rapport と書いて, 発音は “ラポー”. 心理学用語で, 相互の情緒的な心と心の繋がりを意味するものであるが, 昨今は, 講演する時など,「リポート・トーク」ではなく 「ラポート・トーク」 を心掛けよ, などと使われる事が多いようである. Webster の辞書によれば, “sympathetic relationship; harmony” と説明が出ている.)

幸か不幸か, 我が施術所は施術用のベッドが一つしかなく, 「患者様」 とか 「患者さん」 と呼ぶような環境にはなく 「○○さん」 と個人名を呼ばせて戴いている. 先ずは 「形から入る」 と言う考え方も否定するものではないが, 上辺だけ 「患者様」 と呼んで, その実, 誠意のない対応をしていたのでは, 意味がないと思うのだが…