鎌田 實の「この人に会いたい (16) 米長 邦雄さん - 日本将棋連盟会長」を読んで2009/12/17 21:29

鎌田 實先生のブログ 2009 年 12 月 13 日 (日) 版は大変興味深いテーマを扱っていたので, 以下に紹介したい.

この人に会いたい (16) 米長 邦雄さん - 日本将棋連盟会長

『癌ノート ~ 米長流 前立腺癌への最善手』 (ワニブックス) という本を読んで, 面白いなと思った. 66 歳で前立腺癌になった. しかも広範囲の前立腺癌. 手術を勧められたが, 色んな情報を集め, セカンドオピニオンを受けたりしながら, 放射線治療も選択の一つと考えた.

ブラキセラピー (小線源療法) の, 埋め込み式の低線量率組織内照射は, 癌が前立腺の両側にあるために弱過ぎる. 癌の進行を止められないと言われた.

彼は, 手術に傾きかけるが, 高線量率組織内照射という放射線治療があることを知る. 最近の前立腺癌の手術は, 神経温存療法も行われるようになり, 尿漏れや勃起不全などが起り難いと言われている. それでも 2, 3 割は, 機能不全を起こす可能性がある.

そこで彼は, 情報を集め, セカンドオピニオンを受け, 自分にとっての最善手は何か, 選択しようとする. 勝負師米長は, 正しい情報と客観的な判断, そして, 最後にそのドクターの持っている運気をみて決めたと言う. 運気と言うのは, 面白い.

米長さんは, 笑いながら言った.
「タイガーが今, 大騒ぎされているが, 運気のない女性と付き合ってしまったことが問題なんだ」
「そうですか, じゃあ, あげまんの女性と付き合わないといけないですよね」
と, ぼくは切り替えした.

以前, ぼくは 62 歳の男性の奥さんから手紙を貰った事がある. 優しかった夫が, このごろイライラしていると言う. ぼくは, 定年退職後, 精神的な過渡期で, 暗くなったりする事がある, 長い目で支えて上げて下さい, と手紙で返事をした.

また, 奥さんから手紙が来た. 孫にも優しかった夫が, 孫を怒鳴ったり, 私を怒鳴ったりする. 実は, 話し辛いのですが, と前置きし, 夫はセックスが出来なくなった, と書かれていた.

その書き辛い事を書いて呉れた事で, 漸くピンと来た. 前立腺癌でホルモン療法をしているので、薬の影響もあると思った. 泌尿器科の先生と相談をして, 直ぐに改善する事が出来た. 奥さんから, 元の夫に戻りました, 優しくて強い夫です, とニヤッとしてしまう手紙を貰った.

セクシュアルなテーマは, 大事な事なのに, なかなか相談し辛い. 初めの手紙の時に, 勘のいい医師ならば, 言い辛い事を言わせずに済んだかも知れない. ぼくは, 定年退職後の精神的なショックと言う事で片付け様としていた事を反省した.

癌の治療では, 命を助けるために, 尿漏れや勃起障害などについては余り斟酌しない空気がちょっとある. 命が少しでも助かる方法を選ぶのか, セクシュアルな事も含めた QOL を選ぶのか, 患者さんそれぞれの価値観によって選択するのが, その人にとっての最善の治療法となる.

稀代の勝負師が何通りもある指し手の中から, どうやって自己決定したかが良く判った. インタレスティングな時間であった.

私は, この鎌田先生のブログを読んで, 映画 「My Way」 を想い出した.

フランク・シナトラの歌でもお馴染みかと思うが, 同じ初老の主人公が勃起不全に陥った事から, ある種の戸惑いとそこからの立ち直りと言ったものをテーマにしていた映画であった.

夫のみならず, 同じ様な性に関する問題を妻としても抱えている事もあろう. 或る意味, 不定愁訴もそう言った背景を抱えている場合がある. また, 高血圧症の遠因として, その様な問題が潜んでいたりもする. 東洋医学的観点からは, 本治法 (根本療法) と標治法 (局所療法) にも関って来る可能性があり、無視できない問題でもある.

患者さんにとっての最善の治療とは, その人の全人格を掴んで初めて明らかになるケースもなくはない. その意味で, 以前にもこの欄で触れたが, 臨床に際し, 患者さんと施術者 (医者) との 「ラポート関係 (信頼関係)」 の構築は何時も心掛けねばならないと肝に銘じている.
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はり・きゅう・マッサージ トミイ
http://www.ne.jp/asahi/shinqma/tommy/index.html
(なお, 診療予約時、「健康小話」 を読んだ, と言って戴いた患者さんは,
初診料が半額になります.)