貝原 益軒の 『養生訓』 を読む (20)2010/09/01 04:10

臍下三寸を丹田と云. 腎間の動気ここにあり. 難経 (ナンギョウ) に臍下腎間 (の) 動気者 (ハ) 人之生命也. 十二経の根本也といへり. 是人身の命根のある所也. 養気の術つねに腰を正しくすゑ, 真気を丹田におさめあつめ, 呼吸をしづめてあらくせず, 事にあたっては, 胸中より微気をしばしば口に吐き出して, 胸中に気をあつめずして, 丹田に気をあつむべし. 如此すれば気のぼらず, むねさは (わ) がずして身に力あり. 貴人に対して物をいふにも, 大事の変にのぞみ, いそがはしき時も, 如此すべし. もしやむ事を得ずして, 人と是非を論ずとも, 怒気にやぶられず, 浮気ならずしてあやまりなし. 或 (アルイハ) 芸術をつとめ, 武人の槍太刀をつかひ, 敵と戦ふにも, 皆此法を主とすべし. 是事をつとめ, 気を養ふに益ある術なり. 凡技術を行なふ者, 殊に武人は此法をしらずんばあるべからず. 又, 道士の気を養ひ, 比丘の坐禅するも, 皆真気を臍下におさむる法なり. 是主静の工夫, 術者の秘訣なり. (巻第二 48)

「臍下丹田」 或いは, 単に 「丹田」 とは時々耳にする言葉である.

気功は, 極論すると 「呼吸法」 であるが, 呼吸法で一番重要なのは, この丹田で呼吸を行なう事である.

それはさておき, 丹田は臍の下三寸にある. 経絡的には任脈上の 「関元」 と言われる辺り (場合によっては, 臍下 1.5 寸の 「気海」 ないしは, 臍下 2 寸の 「石門」 も) である.

腎臓の動気と言われるものはここにあるのである. 『難経』 (中国医学の古典の一つ, 斉の医師秦越人の著) に 「臍下腎間の動気は, 人の生命なり, 十二経 (鍼灸で言う手足の十二経脈) の根本なり」 と書かれている.

気を養う術は, 常に腰を正しく据えて真気を丹田に集め, 呼吸を荒くすることなく静かにし, 事を行うときは胸中から何度も軽く気を吐き出して, 胸中に気を集めず, 丹田に気を集めるのである.

こうする事によって, 気が上る事はなく, 胸も騒がず, 身体に力が養われるのである.

大事に臨んで事を為すには, 丹田に真気を集める事が大事である.

是が主静 (妄想を去り, 心を静かにする事) の工夫であり術を行なう者の秘訣なのである, と説いている.

剣の極意も, 剣を正眼に構え, 丹田に真気を集中する事と言われている. これが, 敵から見て隙のない姿勢なのである.
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懸けた情けは水に流し, 受けた恩は石に刻め! – (1)2010/09/03 03:49

知人が急死し, 一昨日の晩に通夜, 昨日は告別式があった.

奥さんの話では, 進行性胃癌と言うのが病名だったそうだが, 入院直前まで沖縄に旅行し, 名物の豚料理などを堪能したりしたが, 2 週間ほど前に食べ物を突然吐いた. その吐いた物の中に血が混じっていて, 掛かり付けの病院に行った処, 即入院となったが手術の仕様がなく, 亡くなってしまった由. 末期癌特有の痛みに苦しむ事無く, あっと言う間にあの世に駆け抜けて行ってしまったのだと言う.

通夜に読経をあげて呉れた天台宗のお寺の住職さんが, 次の様な法話をした.

戒名というものは, あの世への 「通行手形」 の様なもので, 俗名で呼ばれている間はこの世に居るが, 戒名を与えられる事で初めてあの世に旅立つ事が許されるのだとの事.

また, 健康には 2 種類あって, 一つは 「身体の健康」, もう一つは 「心の健康」 である. 身体の異変には誰しも自分で感じ取る事ができるが, 心の健康については自分ではなかなか知り得ないものなのである, と.

「いのちの電話」 と言うものがあるのを知っている人は少なくないと思う.

一般社団法人 日本いのちの電話連盟という組織があるが, 電話を通して人々の悩みを聴き心の支えになって行こうと言う活動を行うボランティア団体の全国組織である.

日本自殺予防学会と国際自殺予防学会 (IASP) と連携して自殺予防のために活動している.

参考までに, いのちの電話とは, 次の様な内容のものである.
• 24 時間いつでもかけられ
• 名前は告げる必要はなく
• 相談内容の秘密は, 必ず守られ
• お互いの宗教や主張は尊重され
• 相談は無料
• だが, 金銭的な援助はされない
• 定められた養成課程を終了し相談員としての認定を受けたボランティアが電話相談に当る

住職さんによると, 電話相談員の多くの人は 「電話を架けて来た人の現在の心の在り様は, 普通の人のレベルから懸離れている. 異常な状態にある」 と感じるそうである.

然し, 「あなたの考えは間違っている」 などと決して反論したりしてはいけない. 反論したりすると, その時点で電話の主とのこころの糸の繋がりはプツンと切れてしまい, 自殺から救う事は出来なくなってしまう.

とに角, 先ず, 最初は, ひたすら相手の話を聴いてやる事が最重要なのだそうである. 

何故なら, 電話の主は, 自分の考えや想いが異常だ, 間違っているなどとは決して感じていないからである.

ここで心しなければならないのは, 自分の想いに囚われ過ぎる事 (我に固執する事) は決して得にはならないと言う事であろう.

私の記憶が正しければ, 確か, キリスト教では、人間の心は 4 つの部分に分かれているのだと教えている.

詰り,
1. 自分にも他人にも判る部分,
2. 自分にのみ判るが他人には判らない部分,
3. 自分には判らないが他人にのみ判る部分, そして,
4. 自分にも他人にも判らない部分
である.

ストレス社会に生きている我々は, 心の健康を保つために, 今の自分の心の在り様はこれら 4 つのどの部分なのか, 人間, 時には自分を振り返ってみる必要があるのではないだろうか.

然し, それにしても, ひたすらに相手の話を聴いてやる, と言うのはなかなかに難しい事であると思う. 私の様な, 短気で未熟者では相談員になどなる資格はないな, と思ったものである.
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懸けた情けは水に流し, 受けた恩は石に刻め! – (2)2010/09/04 04:27

また, その住職によると, 能楽の世界を例に挙げ, 能の世界の世界の多くは、面を被った者 (死者・亡霊) と, 面を付けない者 (生きているその人の心) との対話になっているのだと言う.

亡霊は自分の話 (この世の恨み辛み) を聴いて貰う事で, 初めて成仏できる様になるのであり, 相手の話 (心配事や悩み) を聴いてやる, と言うことの大切さを教えているのだ, とその住職はその日の法話を結んだのであった.

詰り, いかに人との対話 (或いは会話) が重要かと言う事であり, 所謂, コンサルティングは, 人が精神のバランスを崩さないためにも不可欠なのである.

実はその住職は, 私の親父が亡くなった時にも読経を挙げてくれており, その時の法話は今でも忘れないでいる.

それが昨日と今日の表題に掲げた言葉で, 「懸けた情けは水に流し, 受けた恩は石に刻め」 と言うものであった.

人間, これだけ尽してやったのに! などと何時までも思っていては, それが怨み辛みとなって人間関係を悪くする.

また, これだけよくして貰った! と心の石に刻み付けておけば, その人に対する感謝の念は消える事がない, と親父の法事で住職は説いたのである.

それ以来, この言葉が私の座右の銘の一つとなっている.

と言うのは, 精神のバランスを崩さぬためにも, 普段からこの様な考え方を心掛けていれば, 精神上のストレスが溜まり難い (東洋医学で言う 「気鬱 (キウツ)」 になり難い) からである.

参考までにご紹介した次第である.
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病室で読むべき本2010/09/05 03:49

作家の山田正紀氏が 「病室で読むべき本」 と題して日経にエッセイを寄稿していた (2010-08-08).

氏は, アガサ・クリスティーの代表的ミステリー本 「ABC 殺人事件」 「愛国殺人」 「ナイルに死す」 「アクロイド殺し」 を挙げていた.

実際, 氏はこれらの本は若い頃に読んでいるが, 既にストーリーは殆ど忘れており, 改めて読み直してみても, 何れも面白く, 入院の憂さを晴らすには充分役に立ったと言う.

何よりも, 読み易く、目も疲れる事無く, 心身の負担にもならなかった, と言っている.

私は, 幸いにして, これまで入院などした経験がなく, 「病室で読む本」 などと言う発想そのものがとても新鮮に感じた.

そこで, さて, 自分だったらどんな本を持ち込むだろうか? と考えてみた. ベッドに寝転がって気軽に読むには, 確かに, アガサ・クリスティーのミステリー本も一案である.

藤沢周平の小説も捨て難い.

然し, 私は敢えて, 山本周五郎の本の幾つかを挙げておきたい.

「日本婦道記」 「おたふく」 「さぶ」 「樅の木は残った」 「菊千代抄」 など, どれをとっても "外れ" はない.

病後の身体に負担を掛ける事無く, 手軽に面白く読める筈である.

然も, 人間の心の温かさ, 優しさと言ったものに触れ, "生きていて良かった", "生きているって素晴しい事だ" と, 深い読後感をしみじみと味わう事が出来るだろう.
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この頃世の中を騒がすもの2010/09/06 02:56

近頃のニュースは何となく心を暗くするものが多過ぎる様な気がする.

自分の時間が欲しいからと, 3 歳と 1 歳の我が子を部屋に置き去りにして餓死させてしまった 23 歳の女性がいたかと思うと, 100 歳超の高齢者の所在不明が次々と明らかになり, 超長寿時代が虚構に過ぎなかった事が明らかになった.

そのきっかけとなった, 東京都内で男性最高齢とされていた 111 歳のケースでは, 家族が 30 年以上にも亘ってその死を意図的に隠しただけでなく, 白骨化した死体と共に家で同居し続け, 親の年金を貰い続けていたらしい. 

更に, 驚いた事には, 100 歳を超えた所在不明の肉親について, その息子や娘でさえ, 親の現況について何の情報も持ち合わせていないと言うか, 連絡を取り合っていない事が殆どなのである.

この様に, 消えた超高齢者の中には, 親の年金に頼らざるを得なかったと言う家庭事情もあった様であるが, 悪意を持って, 意図的に親の死を隠していたケースもまた少なくない様だ.

また, ’09 年度の児童虐待は, 44,210 件に上るという.

これは 「虐待」 であることが確認された件数であるから, 実際にはもっと多いと言う事になる.

虐待が判っても, 子どもを虐待を続ける親から引き離し, 収容する施設も必ずしも充分ではないと言う, 制度上の問題も潜んでいるらしい.

また, 或る調査によると, 子育て中の母親の 3 割近くが, 子どもに対する自分の行為を 「虐待」 と感じた事があるとの事である.

その多くの母親は, 頭では 「してはいけない」 と分っていても先に手が出てしまうのだと言う.

一方, 虐待ではない, と回答した母親は 「虐待かもしれない」 と冷静に考えられる自分が未だいるので、虐待の域には未だ至っていない, と考えているから, との由。.

躾と虐待の間で悩む母親は, 気持を共有できる家族や身近な相談相手を周囲に持っていない事が多い様である.

以前, 本欄で 「無縁死」 を取り上げた事があるが, 実際, 家族の崩壊がここまで進んでいたのか, との思いを新たにした次第である. 

何ともやりきれない思いがするのは, 私だけでは無い筈だ.

かつて, 我々は, 細やかで温かい家族関係を維持し, 地域社会に見守られながら生きて来た様に思うのである.

映画 「男はつらいよ」 のフーテンの寅さんではないが, 下町に連綿として生き続けて来た古き良き (か否かは別として) 人情の世界, 家族の絆の伝統が, 核家族化の進展に伴い, 失われてしまったのだ.

私が楽しみにしているテレビ番組の一つが 「鶴瓶の家族に乾杯!」 であるが, これは, 笑福亭鶴瓶とゲストの二人で, 日本各地の 「家族」 を訪れ, 親子の絆や触れ合いやらを確かめる, と言う内容のものだ.

この番組では, 毎回 「家族っていいなあ!」 と思わせてくれる. この番組を見ていると, まだまだ日本の家族も棄てたものではない, と思うのであるが, 一方では, 上記の如く, 人間性を否定し, 悲惨とも, 残酷とも言い様のない事件が起っている訳である.

親の子に対する愛情は, 本質的に 「無償の愛」 である, と従来思って来たが, 最近は, どうもそうでもないらしい.

然し, 子の親に対する愛情は 「無償」 とは言い難いようである. 地獄の沙汰も金次第, とまでは, 言いたくないが, 親に対する 「介護放棄」, 子に対する 「育児放棄」 や 「虐待」 など, 如何すれば, 防げるのだろうか?

私には, ストレスに満ちた現代社会は 「精神の健康」 が保たれ難いことに, 一つの要因があるように思うのである.
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