医療崩壊 - 全体最適を図ることの難しさ2010/10/17 02:55

長年, 新生児医療に携わって来た, 恩賜財団 母子愛育総合母子保健センター 愛育病院 新生児科の加部一彦部長が, 「医療崩壊」, 特に, 最近問題視されている産科医不足について, 次の様な見解を述べている.

「医療崩壊」 と言えば, 最近の日本の医療事情を示す表現としてすっかり定着した感がある.

特に周産期医療は 「医療崩壊」 を代表する分野として世間から広く認識されているようだ.

「崩壊」 の原因として, 諸説が取りざたされているが, 本当に 「医療」, なかでも周産期医療は 「崩壊」 しているのだろうか.

この四半世紀ほど, 周産期の一部である, 新生児医療に従事してきた身としては, 現状を 「崩壊」 と呼ぶならば, 新生児医療などはとっくの昔に跡形も無くなっていた筈, と言うのが実感だ.

例えば, 新生児専門医の不足や新生児集中治療室 (NICU) の不足に関しては, 1990 年代半ばごろ, 既に学会では 「新生児科医に未来はあるか」 と銘打ったシンポジウムが開催されていた.

背景にある診療報酬の問題とともに活発に議論され, それなりの対策も打たれており, 全くの無為無策だった訳ではない.

確かにその後の 10 年間で, 患者の受診行動の変化や, 医療に対する不信感の高まりなど, 医療を取り巻く環境は大きく変化しつつあるという事実はある.

だが問題は, 全体像を見ずに 「部分最適」 を図ることばかりが繰り返されているところにあるのではないか.

例えば 「産科医が足らない」 と言えば, 分娩に立ち会った産科医だけに手当を加算する.

突如として病院勤務医の待遇改善をうたい, さらに医師不足や医師偏在の対策として医学部定員増を打ち出す.

相も変わらず場当たり的対応が続いている.

特に最近は医療提供側の中心にいる医師が, 声高に 「医療崩壊」 を叫べば叫ぶほど, 浮足だった対応が繰り返されている.

結局, 日本の医療制度の根本にある問題や, 医療の将来像や, 今後のあり方を直視して議論しないため, 「全体最適」 との矛盾は拡大するばかりだ.

そろそろ頭を冷やして 「医療崩壊」 という感情的な言い方はやめ, これからの時代に合った社会保障や医療のあり方を議論できないだろうか.

それが医療の専門家としての医師の責任のあり方でもあると思う.

以上の様に, 長年, 現場経験をしてきた医師ならではの問題提起と言わざるを得ない.

頭は良いが, 現場の実態には疎い中央官僚には解らない事である, と言えばそれまでだが, 実は, 組織においても, 個人においても, 何事につけ, 「部分最適」 は図れても, 「全体最適」 を実現する事は難しいことなのである.

「木を見て森を見ず」 或いは 「群盲象を撫でる」 と言う言葉の通りなのである.

「総論賛成, 各論反対」 と言う言葉もある.

が, 近年は富に, 誰しもが自己の利益に拘り, 相手を (或いは 「全体」 を) 慮る配慮に欠け過ぎている様に感じるのである.

一寸極端過ぎるかもしれないが, 最近, 漸く対話が再開される機運をみせた 「イスラエルとパレスチナ」 問題がその典型と言える.

東洋医学においても, "患者の全体を診よ" と教えられたが, 患者さんの 「主訴」 の裏に隠れされた真因を見抜くのは一朝一夕に為ることではない, と痛感している毎日である.
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はり・きゅう・マッサージ トミイ
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