六車 (ムグルマ) 由実 著 『驚きの介護民俗学』 (医学書院) から2012/11/06 02:03

"学際研究" と言う言葉の存在は知っていたが, 「介護民俗学」 と言う学問がある事は全く知らなかった.

著者は大阪大学大学院を修了後, 東北芸術工科大学で准教授として教鞭を取り, その後, 郷里の静岡県に戻り, 特別養護老人ホームに介護職員として勤務している "民俗学者" である.

入居者から昔の日本人の暮しの話を聞くうち, 「ムラでの民俗調査では普通出会えない明治生まれの人にも, ホームでなら話を聞ける」 と, ホームが民俗調査の対象になると気がついた, と彼女は言う.

民俗学者と言えば, 柳田 國男と宮本 常一の二人が巨頭であるが, 宮本 常一の 『忘れられた日本人』 を彷彿とさせる内容の本である.

介護職員としての仕事の傍ら, 高齢の入居者から聞き取った話を纏めたのが本書である.

老人ホームに入居している高齢者は, 必ずしも地元の人ばかりではない.

別の地方から出稼ぎでやってきてそのまま根付いた人もいる.

静岡にいながら, よその地域の生活の話が聞けるのも興味深い.

また, 昭和初期の会社勤めなど, 都市生活の様子を語る人もいる.

身体にはその人の生活の歴史が刻まれている.

介助を通じてそういう貴重な記憶に触れた時には幸せな気持ちになる.

高齢者の話に真剣に耳を傾け, それを記録することは, それ自体がケアになるのだ, と言うのが, 本書を書く理由になった様だ.

彼女は, これまで 50 人の利用者から聞き書きをし, このうち 7 人の話を 「思い出の記」 として小冊子に纏めている.

「聞き書きをした人の中に, 終戦直後に旧満州 (現中国東北部) で軍の将校だった夫を目の前で殺され, 子どもを連れて日本に引き揚げてきた女性がいます.

夫の実家に身を寄せたものの, 子どもだけ置いて出て行けと言われた.

その後, 再婚して子どもも産みますが, そこに至るまでに様々な苦労をします.

でも彼女は今, 生きていて幸せだと言う.

多くの人の話を聞くと, どんな苦労をしても, 今生きていることにすごい価値があるんだなと感じます.

それをお年寄りが身をもって教えてくれるのです」 と彼女は語っている.

また, トイレの介助から見えてきた高齢者の 「身体記憶」 の箇所には, 彼女ならずとも 「驚きの」 発見であり, まさに 「目から鱗」, 読者に介護と言うものを新たな視点で考え直させるきっかけを与えてくれるだろう.

「入居者は一人ひとりが違った存在. 民俗学を研究している人は勿論, 色んな経験と知識を持った人が介護に関わる事が望ましい」 と彼女は考えている由.

「聞き書きがいいのは, 話す人だけでなく, 聞く側も変るという事です.

聞き書きをしないと, 利用者の生きてきた背景は分らない.

立ち上がるのが大変とか, 食べる時に零すとか, 出来ない事にばかり目がいく.

でもその人がどんな風に生きてきたか分ると, 大抵の事は許せるという感覚になる. 愛おしくなるのです.

それがまた相手に伝わり, お互いの関係が深まっていきます」

彼女は, こう語っている.

けれども, 私の場合, 自分が凡人だからか, 或いは, 介護の対象が自分の親だからか, 「出来ない事ばかりに, 目と心とが行ってしまい」, 「昔の母はこうではなかった」 と言う想いばかりが強く, 大抵の事が "赦せない感情" に捉われてしまうのである.

この本を読んで私が感じたのは, この様な, 著者とのギャップなのであった.

一読をお勧めしたい本である.

Have a nice day!
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